わーく
下町の商店街を立花が散歩していると見慣れないモノを発見した。それは数日前まで『テナント募集』の看板が掲げられていたのだが、今は『シンノスケ トオヤマ 個展』と掲げられている。気になった立花は個展を見ることにした。それを遠山が気怠そうに出迎える。ゆっくりとした明転。上手から独り言を言いながら立花が登場。立花「いやぁ、散歩ってのは、どうしてこうも気持ち良いのかねぇ」周りを見渡しながらゆっくりと下手に向か
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下町の商店街を立花が散歩していると見慣れないモノを発見した。それは数日前まで『テナント募集』の看板が掲げられていたのだが、今は『シンノスケ トオヤマ 個展』と掲げられている。気になった立花は個展を見ることにした。それを遠山が気怠そうに出迎える。
ゆっくりとした明転。
上手から独り言を言いながら立花が登場。
立花「いやぁ、散歩ってのは、どうしてこうも気持ち良いのかねぇ」
周りを見渡しながらゆっくりと下手に向かって歩く立花。
立花「それにしても、この商店街も変わんねぇな、まぁ、ほとんどシャッターが降りているってだけだけどさ」
下手の方を凝視する立花。
立花「あれ!?あそこって、確か“テナント募集中”だったよな?」
小走りで下手の方に向かう立花。
立花「はぁ?“シンノスケ トオヤマ 個展”?おいおい、ここは下町のシャッター街だぞ、右隣は三色旗をはためかせる仏具屋だし、左隣は降ろされたシャッターに“網戸”って書かれてんだぞ、どう考えても無理があんだろ、そもそも“シンノスケ トオヤマ”って誰だよ、見てぇ、どんな奴か見てぇ」
逡巡する立花。
立花「よし、入ろう!これも散歩の醍醐味だ、どうせ“人によく「変わってるね」って言われるんすよ”オーラを見にまとった美大生だと思うけど、これも話のネタになるだろうし、何事も経験だ」
下手に消える立花。
暗転。
明転。
舞台中央にイヤホンでラジオを聞きながら寝そべっている遠山。
上手から登場する立花。
目を合わせ、十秒ほど静止する二人。
立花「父さん…」
遠山「いいえ、遠山です」
立花「なに言ってんの!父さん!」
遠山「いいえ、遠山です、いや、シンノスケ トオヤマです」
立花「イントネーションはどうでも良いから、てか、何やってんの?」
遠山「この度、芸術で食っていくことになりました」
立花「え?あ?え?、農業は?蓮根作りは?」
遠山「やめたぁ」
立花「う、うん、何で?」
遠山「だって寒いも~ん、泥まみれ嫌だも~ん、あ、あと蓮根あんまり好きじゃないし」
立花「何だろうなぁ、この胸あたりに沸き上がってくるどす黒い感情は…」
遠山「あ、あと離婚した」
立花「へ?離婚?い、いつ!?」
遠山「えっとね、一週間くらい前かな」
立花「はぁ!?何で言わなかったのよ?」
遠山「え!?聞いたっけ?」
立花「何処の世界に“髪染めた?”みたいなニュアンスで“離婚した?”って聞く息子がいるんだよ」
遠山「まぁ、紆余曲折あったんだよ」
立花「んで、父さんは婿養子だったから、旧姓の遠山を名乗ってるわけね」
遠山「そう、いや、違う!シンノスケ トオヤマだ!!」
立花「わかったから、シンノスケ トオヤマな…」
展示されている物を見ながら歩き出す立花。
立花「父さん、これ何?」
遠山「おぉ、さすが我が息子、エッジの効いたセンスをしているな」
立花「これ生臭いんだけど…」
遠山「半乾きのタオルで作った覆面」
立花「何だよぉ、これぇ、ゴミじゃんかぁ」
遠山「何を言っておる!歴とした“作品”だ!」
立花「“作品”ってのは、もっとちゃんとしたものを言うんだよ」
遠山「ちゃんとしてるだろぉ、ほら、ここの縫製!ここ大変だったんだぞぉ」
立花「そういう問題じゃないよ~」
遠山「じゃあ、どういう問題なんだよ」
立花「なんかこう…コンセプトだとか、そういうのを感じない」
遠山「あぁ、この“作品”のコンセプトを感じ取れないかぁ、父さん、そういう教育したつもりはないな~」
立花「父さんからは蓮根の掘り方しか教わってないよ」
遠山「俺が“作品”って言ったら“作品”なの!」
立花「はいはい、そうですねそうですね」
再び室内を散策しだす立花。
立花「んで、この“作品”は?」
遠山「ん?あぁ、それは“作品”じゃない」
立花「え?これはちゃんとしてんじゃん」
遠山「当然だろぉ、それデアゴスティーニだもん」
立花「じゃあ、何で個展に出してんだよ、しかも一番目立つ所に」
遠山「き、企業秘密」
立花「おい、個人だろ、正直に一番出来が良いからって言えよ」
遠山「弁護士を通して下さい!」
立花「うるせぇ、文無し」
舞台中央、客席の方を向く二人。
立花「んで、嘘なんでしょ?」
遠山「何が?」
立花「離婚だよ」
遠山「う…ん」
立花「今回は何が原因で母さんと喧嘩したの?」
遠山「あれ」
後ろに振り向き、指を差す遠山。
立花「どれ?」
遠山「だからぁ、あれだよ、あれ」
立花「デアゴスティーニ?」
遠山「全部集めるのに二十万くらいかかっちゃった」
立花「そりゃあ、母さん怒るわ」
遠山「そんなにかかるって思わなかったんだも~ん」
泣き出す遠山。
立花「明日、行こ」
遠山「デアゴスティーニ本社に?」
立花「違うよ、母さんに謝りにだよ、俺も一緒に行くからさ」
遠山「息子ぉ、我が息子ぉ」
立花に抱きつく遠山。
顔を背けながらも抱きつかせる立花。
執拗に抱きついてくる遠山を振りほどいて室内を見回す立花。
立花「あ、これ綺麗!これは“作品”なの?」
遠山「おう、犬の糞にニス加工したんだ」
無言で勢い良く、その“作品”を遠山に投げつける立花。
暗転。
下町の商店街を立花が散歩していると見慣れないモノを発見した。それは数日前まで『テナント募集』の看板が掲げられていたのだが、今は『シンノスケ トオヤマ 個展』と掲げられている。気になった立花は個展を見ることにした。それを遠山が気怠そうに出迎える。
ゆっくりとした明転。
上手から独り言を言いながら立花が登場。
立花「いやぁ、散歩ってのは、どうしてこうも気持ち良いのかねぇ」
周りを見渡しながらゆっくりと下手に向かって歩く立花。
立花「それにしても、この商店街も変わんねぇな、まぁ、ほとんどシャッターが降りているってだけだけどさ」
下手の方を凝視する立花。
立花「あれ!?あそこって、確か“テナント募集中”だったよな?」
小走りで下手の方に向かう立花。
立花「はぁ?“シンノスケ トオヤマ 個展”?おいおい、ここは下町のシャッター街だぞ、右隣は三色旗をはためかせる仏具屋だし、左隣は降ろされたシャッターに“網戸”って書かれてんだぞ、どう考えても無理があんだろ、そもそも“シンノスケ トオヤマ”って誰だよ、見てぇ、どんな奴か見てぇ」
逡巡する立花。
立花「よし、入ろう!これも散歩の醍醐味だ、どうせ“人によく「変わってるね」って言われるんすよ”オーラを見にまとった美大生だと思うけど、これも話のネタになるだろうし、何事も経験だ」
下手に消える立花。
暗転。
明転。
舞台中央にイヤホンでラジオを聞きながら寝そべっている遠山。
上手から登場する立花。
目を合わせ、十秒ほど静止する二人。
立花「父さん…」
遠山「いいえ、遠山です」
立花「なに言ってんの!父さん!」
遠山「いいえ、遠山です、いや、シンノスケ トオヤマです」
立花「イントネーションはどうでも良いから、てか、何やってんの?」
遠山「この度、芸術で食っていくことになりました」
立花「え?あ?え?、農業は?蓮根作りは?」
遠山「やめたぁ」
立花「う、うん、何で?」
遠山「だって寒いも~ん、泥まみれ嫌だも~ん、あ、あと蓮根あんまり好きじゃないし」
立花「何だろうなぁ、この胸あたりに沸き上がってくるどす黒い感情は…」
遠山「あ、あと離婚した」
立花「へ?離婚?い、いつ!?」
遠山「えっとね、一週間くらい前かな」
立花「はぁ!?何で言わなかったのよ?」
遠山「え!?聞いたっけ?」
立花「何処の世界に“髪染めた?”みたいなニュアンスで“離婚した?”って聞く息子がいるんだよ」
遠山「まぁ、紆余曲折あったんだよ」
立花「んで、父さんは婿養子だったから、旧姓の遠山を名乗ってるわけね」
遠山「そう、いや、違う!シンノスケ トオヤマだ!!」
立花「わかったから、シンノスケ トオヤマな…」
展示されている物を見ながら歩き出す立花。
立花「父さん、これ何?」
遠山「おぉ、さすが我が息子、エッジの効いたセンスをしているな」
立花「これ生臭いんだけど…」
遠山「半乾きのタオルで作った覆面」
立花「何だよぉ、これぇ、ゴミじゃんかぁ」
遠山「何を言っておる!歴とした“作品”だ!」
立花「“作品”ってのは、もっとちゃんとしたものを言うんだよ」
遠山「ちゃんとしてるだろぉ、ほら、ここの縫製!ここ大変だったんだぞぉ」
立花「そういう問題じゃないよ~」
遠山「じゃあ、どういう問題なんだよ」
立花「なんかこう…コンセプトだとか、そういうのを感じない」
遠山「あぁ、この“作品”のコンセプトを感じ取れないかぁ、父さん、そういう教育したつもりはないな~」
立花「父さんからは蓮根の掘り方しか教わってないよ」
遠山「俺が“作品”って言ったら“作品”なの!」
立花「はいはい、そうですねそうですね」
再び室内を散策しだす立花。
立花「んで、この“作品”は?」
遠山「ん?あぁ、それは“作品”じゃない」
立花「え?これはちゃんとしてんじゃん」
遠山「当然だろぉ、それデアゴスティーニだもん」
立花「じゃあ、何で個展に出してんだよ、しかも一番目立つ所に」
遠山「き、企業秘密」
立花「おい、個人だろ、正直に一番出来が良いからって言えよ」
遠山「弁護士を通して下さい!」
立花「うるせぇ、文無し」
舞台中央、客席の方を向く二人。
立花「んで、嘘なんでしょ?」
遠山「何が?」
立花「離婚だよ」
遠山「う…ん」
立花「今回は何が原因で母さんと喧嘩したの?」
遠山「あれ」
後ろに振り向き、指を差す遠山。
立花「どれ?」
遠山「だからぁ、あれだよ、あれ」
立花「デアゴスティーニ?」
遠山「全部集めるのに二十万くらいかかっちゃった」
立花「そりゃあ、母さん怒るわ」
遠山「そんなにかかるって思わなかったんだも~ん」
泣き出す遠山。
立花「明日、行こ」
遠山「デアゴスティーニ本社に?」
立花「違うよ、母さんに謝りにだよ、俺も一緒に行くからさ」
遠山「息子ぉ、我が息子ぉ」
立花に抱きつく遠山。
顔を背けながらも抱きつかせる立花。
執拗に抱きついてくる遠山を振りほどいて室内を見回す立花。
立花「あ、これ綺麗!これは“作品”なの?」
遠山「おう、犬の糞にニス加工したんだ」
無言で勢い良く、その“作品”を遠山に投げつける立花。
暗転。