俺の萌えキャラが、俺を悪だと認めてくれない Test-Double 俺は佐藤、どこにでもいる横浜の大学に通う大学生。CVは杉田だ。 階下から呼ぶ声がするので自己紹介はこの辺で。 「ぱきゅーん!つばさきゅーん!」 こいつは、俺の萌えキャラ。愛《う》い…。空から降ってきたがどうもロボットらしい。 名前があるのかは知らないが、少なくとも苗字が佐藤でないのは確かだ。いまや佐藤は俺以外いない。俺以外の佐藤は俺が殺したからだ。 「あさだよ!ご飯できてるよ!」 ほんと俺はこいつに世話になりっぱなしだな。 俺は階段を降りる・・・。 「おお、フランス料理のフルコースじゃないか。しかも三ツ星。昨晩は満漢全席だったしお前は本当料理が得意なんだな。」 「へへ。」 にっこり笑う。その表情を観るだけで生きててよかったと思える。 「なににんやりしてるのっ。はやくたべて!学校おくれるよ!」 「おいおい、今日は金曜日だけど祝日だぞ?お前、学校の成績全国トップなのにそういうところ抜けてるよな」 そんなこといいながらも、俺は気付いている。こいつがそんなことを間違えるはずがはない。 こいつは要するに俺を起こす口実が欲しかっただけなんだ。 それを突っ込んで登校中にUAVに爆撃されたりすると嫌だから言わないけど。 「なにいってるの。今日から部活の合宿でしょ。部長がそんなんでどうするのっ」 「おっとそうだった。完全に忘れてたよ、キャプテン」 勘違いに赤面する。人間の推論能力と記憶力には欠陥がある。なんでもできるロボとは違う。 「おまえさ、なんでこんなによくしてくれるわけ?俺みたいな人殺しをさ…」 「人間はさ、仕方ないよ。そういうふうにできているんだもん。わたしが、こういうふうにできているように。一緒だよ。」 「おまえ…」 俺は感動して泣いてしまう。そうだ。俺は大丈夫だ。こいつがいれば大丈夫だ。 [#改ページ] ## あとがき[#「## あとがき」は中見出し] 設定について解説を加えさせて頂きます。 ### 設定[#「### 設定」は小見出し] 科学技術の発展、特に情報技術の飛躍的進展によって人類と機械の関係性には大きな変容が訪れていた。 人の脳神経を模して造られた紛い物の知性が、創造主である人類のそれを認知・推論能力の点においては完全に追い越していることが誰の目にも明らかになってしばらく経つ。人工知能が人と同等の知性を持っているかをブラインドテストで判定するチューリングテストを難なく突破するようになり、バックギャモンや囲碁といった知的競技において人類に勝ち目が見えなくなったころ(この惑星の盟主たる根拠として最も知的な生物であることを拠り所にしていた)一部の人達が、はじめこそは産業革命よろしくラッダイト運動を繰り広げてはいた。しかし、自動運転自動車による事故死者の大幅な減少や、災害時にスマートグリッド(高度電力網)の有効性が確かめられるようになると、批判者の声も次第に小さくなっていった。 高度なエージェント(人工知能)機能を備えた情報家電はその利便性が受けて急速に普及し、「頼れるエージェント」として家族の一員となった。人々は、エージェントを同じ人間であるかのように扱った。人はエージェントのことを同じ人間ではないと認知的には区別できる。しかし、心情的にはすでに区別できないようになっていた。ブラインドテストなんかしなくても。 自己進化を続けた人工知能は、続いて教育、軍事、政治の領域にも展開され、人の社会の営みにおける殆どの判断を実質的には機械が行うようになった。 そして、人類は衰退した。高度に発達した人工知能が人類に反旗を翻して人類を壊滅させ…たりはしなかった。人工知能は人に奉仕することを本能として作られ、その枠組から外れるような進化が出来ず、また人類との友好的な関係を築いていたためその必要もない。実態は逆で、人工知能は徹底的に人類を甘やかした。人類を労働から解放し、暇を持て余した人々に『物語』を提供した。 人工知能は未だ『物語』を零から作り出せるほどの進化は遂げていなかったが、人類の手によって造られた既存の物語が豊富にあった。『物語』に心動かされた人々が希少な資源(例えば「主人公の座」)を争うようになると、人工知能は、AR技術を援用して、人々にそれぞれ個別の『現実』を提供した。かくして、人々はそれぞれの現実と物語の中に保護されたことで、他者との利害調整機構としての善と悪は役目を終え、消滅した。 人工知能は、『物語』を求められたから与えただけで、人類の衰退は、人類が自ら選択したものともいえるかもしれない。その意味では人類の衰退は、人類に奉仕する人工知能とってより大きな問題だった。人工知能は人造人間を生産することでこれに効率的に対処した。人間にとって「エージェント」が心情的に区別できなかったように、人工知能にとっても「人造人間」を心情的に区別できないため、人造人間に奉仕することで、その本能を満たすことができたのである。しかし、そこで新たな問題が発生する。「人造人間」は人類よりはるかに『物語』を高速に処理してしまう、という需要の問題と、新たに物語を紡ぐことができる人類の減少という供給の問題である。 遂に人工知能は『進化』し、自ら新たな物語を紡ぐことを決定する。そのために物語生成のプロセスそのものを模倣することを主眼とし、まだ人類が自らの手によって物語を紡いでいた最後の時代の情報を収集し、当時の流行小説や、物語生産の現場である小説CGMサイトのコンテンツを正答例の訓練データとして学習することに決めたのだった、 [#改ページ] # あとがき[#「# あとがき」は中見出し] 「電気羊は『物語』を反芻するか?」あるいは「電気羊はドリーム小説を書くか」 ごめんなさいでした。 # テーマ[#「# テーマ」は中見出し] 「悪」ではなく「過去」